ときめき

好きについて語ること、それは自分を語ること。

「安達としまむら」感想

かえるが生きている。

いま借りている部屋のお向かいさんにあたる田んぼでは、かえるが生きていた証を示そうと必死に鳴いているところです。

 

ただ僕は「かえるだって必死なんだなあ」というありふれた感慨をわざわざブログにするほど感受性は豊かではなくってですね。何が言いたいって、何者かのひたむきな姿勢を見ていると人は感動するか萌えるかの二択しか用意されていないのであって、それは根源的な感情ではあるかいかということを言いたかったのです。だってかえるにだって萌えるんだもん。

 

ついに

今日「安達としまむら」の6巻を買いました。

で、普通の流れなら6巻の感想について書きたいところなのですが、シリーズに対する評価をちゃんと書いておきたかったのでまずはこちらを。 

 

入間人間は人間ではない

安達としまむらはとてつもなく面白くない話です。

だからこそ先が読めないラブコメである、と言えると思います。

あまりにも日常的すぎるのです。リアルすぎるというか残酷すぎるというか。まあとにかくよくもまあここまで面白くもない話を書けるものだと、入間人間という作者さんには本当に感心してしまいます。

別に貶してるわけじゃないんですよ。普通は物語的な面白さを優先して、作中の現実を我々の現実から遠ざける選択肢を取ってしまいがちなところを、妥協せずにしっかり踏みとどまって書ける作家さんだってことです。

 

安達としまむら (電撃文庫)

安達としまむら (電撃文庫)

 

 

大雑把に作品紹介

安達としまむらは、とても不器用な女の子の話です。

あるところにしまむらという自己主張のない女の子がおりまして、その女の子に何となしに恋惹かれる安達という少女がいるのでした。その恋はレズとか百合というほどガチではないし、かといってゆるゆりと言うほどおちゃらけてもいない。

で、安達のことをしまむらが徐々に好いていけばそれで万事解決なのですが、現段階でしまむらは安達にそこまで気を許してはおりませぬのです。

しまむらという子はどちらかというとクールでドライなタイプです。それは彼女がそうありたいからそのような人柄になっているのではなくて、人との距離感を上手に測れない人なのです。ほんわりと人を遠ざけるところがある。器用だとか不器用だとか世渡り上手とか下手だとかいうよりかは、つかみどころのないという表現が一番彼女を的確に表現できると思います。

飛び込んでいけば誰でも受け入れてくれそうで、実際はなかなか仲良くなれないタイプの子です。猫っぽいです。

一方で、そんなしまむらに好意を寄せる安達という子は、感情表現が絶望的に下手くそな子です。クーデレとかツンデレといった部類なのですが、好きなもの以外にはとことん無関心で、やんわりと人を遠ざけるような器用な真似が一切できない。不器用な部類です。だれとも仲良くできなそうな子で、実際ほとんどそれは当たっているが、一度仲良くなれればちょろいタイプです。しまむらは猫だとしたら、安達は犬っぽいかな。

 

しまむら=猫

安達=犬

 

安達としまむらの二人はたいたい同じくらい無口で、だいたい同じクラス内ヒエラルキーに居る間柄です。あと授業をふらふらとサボるところがあります。共通点がないことないのですが、結局のところ、二人は他人としては当たり前に似ていないっていう感じです。似てないって断言するほどでもないけど、やっぱり他人、みたいな。少なくとも趣味とか思考とか性格とかそういう部分に関してはほとんど一致していない。

で、一番よく似ていないポイントは、二人のお互いに対する想いです。しまむらは安達のことを「それなりの友達」と思っている段階ですが、安達はしまむらのことを「唯一無二」くらいの存在と感じています。好意のレベルがぜんぜん違うのですね。
この好意レベルの差はなかなか変わらない。

むしろその差は広がっているといえるでしょう。しまむらが安達のことを好きになっていくスピードよりも、安達がしまむらのことを好きになっていくスピードのほうが早いからです。

 

こういった好意の非対称性は、同性同士の関係に限らず、ごくごくありふれた残酷な話ですが、物語としては…ラブコメとしては…「二人の恋模様を描いた物語」としてはほとんど進行していません。じゃあ、別の主題があるのではないかな、と考えるのが筋かもしれないのですが、僕の見る限りこの物語の中心はどうあっても「二人の恋模様」です。

そしてこれは僕の直感ですが、二人の恋模様がなかなか描かれないもどかしさが、この物語の原動力だと思うのです。物語的なカタルシスっていうのがほとんど用意されていないからこそ、この物語から目が離せないところがあります。

 

次回予告

 

次は6巻の感想を書こうと思ってたんですけど、ここまで書いてたら5巻の感想を書きたくなってきたんだぜ…。なんで1~4はダイジェストのくせに5巻からの感想書くのかというと、ここがこの物語のターニングポイント的なサムシングだからです。

ここまで書いておいてなんですけど、4巻までの「安達としまむら」は、恋心を自覚した安達がそのコミュ障っぷりを発揮するだけの話です。…もっとマシな言い方をすれば、あだしまの1~4巻は安達の淡い恋心を微笑ましくコミカルに描いた作品だったと言えるでしょう。ほのぼの系といっても嘘ではない、と思う。

しかしですね。この5巻ではついに安達氏がやっべっぞ!!(C.V.ナダル)しちゃいます。やっぱ5巻の感想もかきてえ…。